クラウド
クラウドは2006年に生まれたのか
「クラウドコンピューティング」の生みの親として語られるのは、2006年のGoogle CEOの発言だ。だが調べていくと、10年前のテキサスの会議室に、もうひとつの雲が浮かんでいた。
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「クラウド」という言葉の由来を尋ねると、多くの説明は同じ場面に行き着く。2006年、GoogleのCEOだったエリック・シュミットが業界カンファレンスで口にした「クラウドコンピューティング」。辞典にも、シュミットが「はじめてこのことばを使ったとされる」と書かれている[1]。
「とされる」という言い回しに注意したい。初出と普及は、別のものだからだ。
雲はどこから来たか
まず、なぜ「雲」なのか。辞典の補説によれば、コンピューターネットワークのイメージ図で、インターネットを雲の形で描くことに由来する[1]。図の中で、細部を描き込む必要のない「向こう側」を、輪郭のぼやけた雲で表す。利用者からは中身が見えないが、そこに接続すれば何かが返ってくる。この図像の性格が、サービスの形態の名前にそのまま移された。
2006年8月9日
MIT Technology Review の2011年の記事によれば、現代的な意味での「cloud computing」の最初の用例を、2006年8月9日のシュミットの発言だと考える人は多い。シュミットは「データサービスやアーキテクチャはサーバー上にあるべきだ」と述べたうえで、「私たちはそれをクラウドコンピューティングと呼んでいる」と語った[2]。
翌2007年には、Amazon、Microsoft、IBMなどもクラウドへの取り組みを打ち出し、言葉は新聞記事にも現れるようになる[2]。普及の起点としての2006年は、たしかに大きな節目だった。
1996年11月14日
ところが同じ記事は、さらに10年さかのぼる資料を掘り起こしている。テキサス州ヒューストン郊外にあったCompaqのオフィスで、1996年11月14日付の社内文書「Internet Solutions Division Strategy for Cloud Computing」が作られていた。50ページにわたるこの分析は、企業向けソフトウェアがWebを介したサービスへ移っていくことを予見しており、同記事はこれを「cloud computing」という語の印刷物での最古の既知用例としている[2]。
では、名付け親は誰なのか。記事によれば、当時の会議室にいた二人、ジョージ・ファヴァローロとオサリバンのどちらが言い出したのかは、本人たちの記憶でも定かではない。当時のメールが残っていたはずのハードディスクは、とうに失われている[2]。
初出、普及、命名者
この話から分かるのは、言葉の歴史を語るときに少なくとも三つの問いを分けなければならない、ということだ。
- 確認できる最古の用例はいつか(初出)
- いつ、誰の発言をきっかけに広まったか(普及)
- 誰が最初に思いついたのか(命名者)
クラウドの場合、初出は1996年のCompaq文書、普及の大きなきっかけは2006年のシュミット発言、命名者は未確定、ということになる。本サイトの辞典ページで、クラウドに「諸説あり」の表示を付けているのはこのためだ。
さらに古い用例が見つかれば、この記述は更新される。雲の輪郭は、まだ少しぼやけている。
出典
辞書クラウドコンピューティング(コトバンク:デジタル大辞泉・日本大百科全書ほか)
小学館ほか コトバンク 2026-10-17参照
裏付け:「クラウド(雲)」がネットワークのイメージ図でインターネットを雲として表すことに由来すること(該当箇所:デジタル大辞泉[補説]、日本大百科全書「クラウドコンピューティング」)
注記:日本大百科全書は2006年のエリック・シュミットを初使用と「される」と記すが、それ以前の用例がある(mittr-cloud参照)。
報道Who Coined 'Cloud Computing'?
Antonio Regalado MIT Technology Review 2011-10-31公開 2026-10-17参照
裏付け:1996年11月14日付のCompaq社内文書「Internet Solutions Division Strategy for Cloud Computing」が印刷物での最古の既知用例とされること、2006年8月9日のシュミット発言、2007年以降の普及(該当箇所:Compaq社内文書とシュミット発言に関する段落)
注記:命名者がFavaloroかO'Sullivanかは同記事でも未確定とされている。