マウス / ウインドウ / アイコン / クラウド
ネズミ、窓、像、雲 画面の中の比喩たち
私たちは毎日、ネズミを動かして窓を開き、像をクリックして雲に保存している。コンピューターの言葉が身近な物の名前を借り続けた理由を、ひとつずつたどる。
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私たちは毎日、ネズミを動かして窓を開き、像をクリックして、雲にファイルを保存している。こう書くと奇妙な一日だが、コンピューターの言葉に置き換えれば、ごく普通の作業になる。マウス、ウインドウ、アイコン、クラウド。画面のなかは、身近な物の名前を借りた比喩でいっぱいだ。
しっぽのある装置
マウスの名前の由来について、辞典は「ケーブルを接続した形がネズミに似ているところから」と説明する[1]。
装置そのものの歴史は、開発元の記録でたどれる。SRI International によれば、ダグラス・エンゲルバートが1960年代前半に開発を始め、1964年にビル・イングリッシュが最初の試作機を製作した。特許の名前は「X-Y Position Indicator for a Display System(表示システムのためのX-Y位置指示器)」で、1967年に出願、1970年に成立している[2]。
正式名称は、機能をそのまま説明した長い名前だった。エンゲルバートの研究所の資料には、試作機のコードを「tail(しっぽ)」と呼び、それが上側から出るように向きを変えた、という記述がある[3]。形から生まれた愛称が、正式名称を押しのけて定着したことになる。誰が最初に「マウス」と呼んだのかは、本サイトではまだ確認できていない。
風の目
ウインドウは、もっと古い比喩の上に、さらに比喩を重ねた言葉だ。百科事典によれば、英語の window は「風の目」を原義とし、窓の役割のひとつである通風を表している[5]。
コンピューターでのウインドウは、ディスプレー上に窓のように置かれる長方形の独立した表示領域を指す[4]。壁に開けた穴から外をのぞくように、画面の一部を区切って別の作業をのぞかせる。風の通り道だった言葉が、情報の通り道になった。
像としてのアイコン
アイコンは、画像を意味するギリシア語イコンからきた言葉だと、百科事典は説明する。GUIでは、プログラムやファイルの種類を小さな絵記号で表し、利用者が直感的に操作できるようにしている[6]。
「像」という意味は語源のレベルで保たれたまま、宗教画の「イコン」と画面上の「アイコン」という二つの読み方に分かれて日本語に残った。
図の中の雲
クラウドは、少し事情が違う。マウスやウインドウが現実の物を比喩に使ったのに対し、クラウドの比喩はネットワーク図のなかの「雲の記号」から来ている。辞典は、ネットワークのイメージ図でインターネットを雲として表すことに由来すると記している[7]。
つまりクラウドは、比喩の比喩だ。空の雲が図の記号になり、図の記号がサービスの名前になった。
なぜ比喩なのか
新しい道具が現れたとき、人はまず既存の言葉でそれを呼ぼうとする。マウスの正式名称が「X-Y位置指示器」のままだったら、これほど親しまれただろうか。比喩は、見たことのないものを、見たことのあるものの延長として受け入れさせる。
ただし、比喩の由来は時間がたつと見えにくくなる。マウスを見てネズミを思い浮かべる人は、もう多くないかもしれない。それぞれの言葉の辞典ページでは、比喩の出どころと、その根拠となる資料を並べている。
出典
辞書マウス(コトバンク:デジタル大辞泉・精選版 日本国語大辞典)
小学館 コトバンク 2026-10-17参照
裏付け:マウスがハツカネズミの飼養白変種(実験動物)を指すこと、入力装置の名称がケーブルを接続した形がネズミに似ていることに由来するとされること(該当箇所:デジタル大辞泉「マウス」)
公式資料Computer mouse and interactive computing
SRI International 2026-10-17参照
裏付け:エンゲルバートが1960年代前半に開発を始め、ビル・イングリッシュが1964年に最初の試作機を製作したこと、特許名が「X-Y Position Indicator for a Display System」で1967年出願・1970年成立であること、1968年のデモ(該当箇所:本文(開発経緯と特許))
注記:開発機関自身による歴史紹介。
公式資料Historic Firsts: The Mouse
Doug Engelbart Institute 2026-10-17参照
裏付け:マウスが1964年秋にスタンフォード研究所(現SRI)で発明されたこと、試作機のコード(tail)の向きを変えた経緯(該当箇所:Overview / The First Mouse)
注記:エンゲルバートの家族が設立した団体の資料。
辞書ウインドー(コトバンク:デジタル大辞泉・精選版 日本国語大辞典)
小学館 コトバンク 2026-10-17参照
裏付け:ウインドーが「窓」と、ディスプレー上に窓のように置かれる長方形の表示領域を指すこと(該当箇所:デジタル大辞泉「ウインドー(window)」1・3)
百科事典window(コトバンク:世界大百科事典(旧版)「窓」より)
平凡社 コトバンク 2026-10-17参照
裏付け:英語 window が「風の目」を原義とすること(該当箇所:【窓】より)
注記:原語(古ノルド語など)の詳細は本資料に記載なし。
辞書アイコン(コトバンク:デジタル大辞泉・百科事典マイペディア)
小学館・平凡社 コトバンク 2026-10-17参照
裏付け:アイコンが画像を意味するギリシア語イコンからきた言葉で、GUIで機能やファイルを表す絵記号を指すこと(該当箇所:百科事典マイペディア「アイコン」)
辞書クラウドコンピューティング(コトバンク:デジタル大辞泉・日本大百科全書ほか)
小学館ほか コトバンク 2026-10-17参照
裏付け:「クラウド(雲)」がネットワークのイメージ図でインターネットを雲として表すことに由来すること(該当箇所:デジタル大辞泉[補説]、日本大百科全書「クラウドコンピューティング」)
注記:日本大百科全書は2006年のエリック・シュミットを初使用と「される」と記すが、それ以前の用例がある(mittr-cloud参照)。